この記事は、3-shake Advent Calendar 2024 6日目のエントリ記事です。
はじめに
こんにちは、nwiizoです。2024年も終わりに近づいています。毎年恒例となった年末の読書振り返りの時期が来ました。今年はいつも以上に多くの本を読みましたが、その中でも技術書以外の本との出会いが、私の世界を大きく広げてくれました。哲学書、ビジネス書、社会科学書など、多岐にわたるジャンルの本に触れることで、新しい視点や考え方を学ぶことができました。なお、今回は物語やノンフィクションについては別の機会に譲り、主にビジネスや思考に関する本を中心にご紹介させていただきます。
一見エンジニアリングとは関係のない本の中に、日々の仕事や課題解決に活かせるヒントが数多く隠れていることに気づかされた一年でもありました。本を読むことは知識を得るだけでなく、物事を多角的に捉える力を育んでくれます。様々な分野の本に触れることで、自分の思考の幅が広がり、新しいアイデアや解決策が浮かぶようになってきたように感じています。
...とここまで偉そうに書きましたが、実際のところ私は「へぇ~、そうなんだ」とか「なるほど、そういう考え方もあるのか」くらいの気持ちで本を読んでいます。
この記事では、2024年に私の心に深く刻まれた非技術書をご紹介したいと思います。これらの本との出会いが、読者の皆さんの新たな読書体験のきっかけになれば幸いです。
- はじめに
- 昨年以前に紹介した本
- BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?
- High Conflict よい対立 悪い対立 世界を二極化させないために
- 「怠惰」なんて存在しない 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論
- THINK BIGGER 「最高の発想」を生む方法
- 「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策
- イシューからはじめよ[改訂版]――知的生産の「シンプルな本質」
- 会って、話すこと。――自分のことはしゃべらない。相手のことも聞き出さない。人生が変わるシンプルな会話術
- 勘違いが人を動かす――教養としての行動経済学入門
- おわりに
昨年以前に紹介した本
syu-m-5151.hatenablog.com
syu-m-5151.hatenablog.com
syu-m-5151.hatenablog.com
syu-m-5151.hatenablog.com
BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?
世間を賑わせたメガプロジェクトの成功と失敗について掘り下げた本です。何が面白いって、メガプロジェクトというのはほぼ確実に上手くいかないのです。予算はオーバーし、納期は遅れ、最後には利益も出ない。しかも規模が大きいだけに、失敗のインパクトも半端ない。でも、そんな中でもたまに劇的に成功するプロジェクトがある。本書は、その差は一体どこにあるのかを探っています。
著者が紹介する成功への要因は意外とシンプルです。「ゆっくり考え、すばやく動く」という原則や、「レゴを使ってつくる」という具体的な可視化の手法、「マスタービルダーを雇う(専門家を頼る)」といった実践的なアプローチが示されています。
実は、この本の面白さは二重構造になっています。壮大なプロジェクトの成功と失敗の物語として読むと純粋に面白いのですが、自分が経験したことがあるプロジェクトに重ねて読むと...(ちょっと考え込む)まあ、そこは各自の想像にお任せします。
特に印象的だったのは、大規模プロジェクトの教訓が、実は小規模なプロジェクトにも当てはまるという指摘です。例えば「小さく試し、成功したら拡大する」というアプローチは、ビジネスからアート、果ては生物の進化まで、不確実性と向き合うあらゆる分野で見られる原則なんですよね。
何か新しいことに挑戦しようと考えている人には、特におすすめの一冊です。ただし、現在進行形でプロジェクトの真っ只中にいる人は、読むタイミングを少し考えた方がいいかもしれません。なんてったって、成功率0.5%という現実を突きつけられますからね。
High Conflict よい対立 悪い対立 世界を二極化させないために
対立には2つの種類があるということを、この本は教えてくれます。健全な対立は、私たちの成長を促し、相互理解と向上につながります。一方で、不健全な対立(ハイコンフリクト)は、「私たち対彼ら」という二項対立に陥り、問題の本質とは関係のない揚げ足取りや感情的な対立を引き起こします。
読んでいて特に対立は感情の問題ではなく、構図の問題だという指摘が印象に残りました。私たちは「相手の感情を変えなければ」と思いがちですが、実は解決すべきは対立という構造そのものなんですね。
本書が提案する解決策も興味深いものでした。従来の「逃げる」「戦う」「我慢する」という3つの方法ではなく、第四の道を示してくれます。それは、最終的な意見の一致を目指すのではなく、お互いの話に真摯に耳を傾けること。意見は違っていても、自分の話をちゃんと聞いてもらえたと全員が感じられれば、それが健全な対話への第一歩になるというわけです。
読んでいて「よい対立」というのは、実は「よい対話」のことなのかもしれないと思いました。相手と自分の違いを楽しみながら、お互いの考えを知ろうとする姿勢。それが結果的に、建設的な関係性を築くヒントになるのではないでしょうか。
ただし、これは理想論に聞こえるかもしれません。実際の現場では、感情的になったり、相手の話を遮ってしまったりすることは日常茶飯事です。でも、だからこそ、この本が教えてくれる対立の構造を理解し、より良い対話を目指すヒントは、とても価値があると感じました。
「怠惰」なんて存在しない 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論
「休むこと」に罪悪感を覚える社会の呪縛について、深い洞察を投げかける一冊です。著者は、「怠惰は悪である」という私たちの思い込みが、実は資本主義社会が生み出した幻想だと指摘します。
人の価値は生産性では測れないという当たり前だけど忘れがちな事実です。「もっとできるはずだ」「自分の限界を信じるな」といった私たちが "真実" だと思い込んでいる考えが、実は "ウソ" かもしれないと思わされます。
特に印象的だったのは、休息は "サボり" ではなく、むしろ脳を活性化させる大切な時間だという指摘です。何もしていないように見える時間こそ、実は新しいアイデアが生まれる瞬間だったりします。実はこれは、近年増加している燃え尽き症候群の問題とも深く関係しています。休むことを後ろめたく感じ、常に生産的でなければならないというプレッシャーは、私たちのメンタルヘルスに大きな影響を与えているのです。
これは昨年話題になった『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか』という本でも指摘されていました。バーンアウトは単なる個人の弱さの問題ではなく、仕事が私たちのアイデンティティそのものになってしまっているという、現代社会の構造的な問題なのだと。
実は私も、「もっと頑張れるはずだ」と自分を追い込むタイプでした。でも、そんな生き方って本当に正しいのかな?と考えるきっかけをくれた本です。生産性や成果だけが人生の価値を決めるわけじゃない。この当たり前の事実に、改めて気づかされました。
この本は、急がなくていい、そんなに頑張らなくていいと、優しく語りかけてくれます。そして、それは決して「怠けていい」という意味ではなく、むしろ自分らしく、人間らしく生きるための大切な気づきなのだと教えてくれるのです。
THINK BIGGER 「最高の発想」を生む方法
この本は、私たちの「創造性」に対する多くの思い込みを覆してくれる一冊です。「天才のひらめき」という美しい物語は、実は幻想かもしれないという衝撃的な指摘から始まります。
著者によれば、イノベーションの本質は「新しいアイデアを無から生み出すこと」ではなく、「既存のアイデアを新しく組み合わせること」なのだそうです。例えば、ピカソが天才的なアーティストとされるのは、同時代の画家マティスとアフリカのビリ人による彫像を巧みに組み合わせて、キュビスムという新しい芸術様式を生み出したからなんですね。
この点について、私は広告界の巨人ジェームス・W・ヤングの『アイデアのつくり方』(1940年)から学びました。ヤングは「新しいアイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない」と述べています。そして私は、その組み合わせを見つけるには、事物の関連性を見つけ、組み合わせを試行錯誤することが重要だと考えています。
特に印象的だったのは、私たちが「創造性を高める」と信じている方法の多くが、実は科学的な根拠に欠けているという指摘です。ブレインストーミングの効果は研究で否定されているとか、オフィス空間を奇抜にしても創造性は上がらないとか。むしろ大切なのは、様々な素材を一つ一つ心の解像度を上げて捉え、向き合うこと。そして、それらの関係性を探り出すことなのです。
著者は、アイデアの創造プロセスについて興味深い観察を示してくれます。何気ない見聞き、例えば電車に乗っているとき、風呂に入っているとき、トイレのときなど、ふとした瞬間にアイデアが心の中で飛び込んでくる。でも、これは実は偶然ではなく、それまでの地道な素材集めと向き合いの結果なんだそうです。
この本は、世の中に溢れている「創造性神話」を丁寧に解きほぐしながら、誰もが実践できる方法論を示してくれます。アイデアを生むには、まず問題を無意識の中で整理し、忘れたような状態にすることも大切なんですね。そして何より、「天才のひらめき」を待つのではなく、地道に知識を蓄え、既存のアイデアを組み合わせていく。そんな着実なアプローチこそが、実は最も創造的な方法なのかもしれません。
「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策
コミュニケーションの失敗の原因を、認知科学の視点から解き明かしてくれる一冊です。著者は、「話せばわかる」という私たちの思い込みが、実は幻想かもしれないと指摘します。
人は自分の都合のいいように誤解する生き物だという指摘です。これは、相手が「悪意を持って誤解している」わけではなく、むしろ 私たち一人一人が持つ「知識や思考の枠組み(スキーマ)」が異なるために起こる自然な現象なんだそうです。
例えば、同じ「ネコ」という言葉を聞いても、人によって思い浮かべる映像は全く違います。これと同じように、ビジネスの現場でも、私たちは知らず知らずのうちに、自分のスキーマを通して相手の言葉を解釈しているのです。
著者は、コミュニケーションの達人になるためのヒントも示してくれます。ポイントは、「失敗を成長の糧にする」「説明の手間を惜しまない」「相手をコントロールしようとしない」「聞く耳を持つ」といった心構えです。これは決して「相手に合わせろ」という話ではなく、むしろお互いの違いを認識した上で、どう理解し合えるかを考えることの大切さを教えてくれます。
この本は、日々のコミュニケーションで「なんでわかってくれないんだろう」と悩む私に、とても実践的なヒントを与えてくれました。結局のところ、完璧な伝達は不可能で、むしろ誤解や聞き違いを前提に、どうコミュニケーションを取るかを考えることが大切なのかもしれません。
イシューからはじめよ[改訂版]――知的生産の「シンプルな本質」
この本は私にとって特別な一冊です。「今この局面でケリをつけるべき問題」を見極めることの大切さを教えてくれた、まさにバイブルと呼べる存在でした。今回の読書振り返りを書くにあたっても、「何を伝えるべきか」を考える際の指針となってくれています。
本書の核心は、「真に価値のある仕事は、イシューの設定から始まる」というものです。世の中には問題が山積みですが、その中で「今、本当に答えを出すべき」かつ「答えを出す手段がある」問題は、実はごくわずかです。
優れた知的生産には分野を超えて共通の手法があると本書は教えてくれます。ビジネスでも、研究でも、アートでも、本質的な問題を見極めることから始めるという原則は変わりません。これは『熟達論―人はいつまでも学び、成長できる』でも同様の指摘がされています。分野は違えど、真に優れた実践者たちには共通のパターンがあるのです。それは問題の本質を見抜き、そこに向けて地道な努力を重ねる姿勢です。両書を読み進めるうちに、自分の中で「イシュー」を見極めることと「熟達」することの間に深いつながりがあることを感じました。
この気づきは私の学びの姿勢を大きく変えました。以前は目の前の課題に対して「とにかくやってみる」というアプローチでしたが、今は必ず立ち止まって「本当のイシューは何か」を考えるようになりました。そして、そのイシューに向き合う中で、自分自身の熟達度も少しずつ上がっていくような気がしています。
また、本書では「課題解決の2つの型」について深く掘り下げています。ギャップフィル型(あるべき姿が明確な場合)と、ビジョン設定型(そもそもあるべき姿を見極める必要がある場合)という分類は、単なる理論的な整理ではありません。これは実践の場で直面する様々な課題に対して、どのようなアプローチを取るべきかを示す羅針盤となってくれます。多くの失敗は、この2つの型を取り違えることから始まるのかもしれません。
今年の読書でも、この本で学んだ「イシューからはじめる」という考え方が、本の選び方や読み方に大きな影響を与えています。一見バラバラに見える本たちも、実は私なりの「イシュー」に基づいて選んでいたことに、この振り返りを書きながら気づきました。それぞれの本が、異なる角度から私の中の「イシュー」に光を当ててくれていたのです。
会って、話すこと。――自分のことはしゃべらない。相手のことも聞き出さない。人生が変わるシンプルな会話術
この本との出会いは、私の会話に対する考え方を大きく変えてくれました。「人は他人の話に興味がない」という荒々しいけれど正直な前提から始まり、そこから真摯に「ではなぜ人は会って話すのか」を探っていく展開に引き込まれました。
本書で最も印象的だったのは、「外にあるものを一緒に見つめる」という会話の本質についての洞察です。自分のことを話したり、相手のことを聞き出したりする必要はない。むしろ、お互いの外にあるものに目を向け、新しい風景を一緒に発見することが、会話の醍醐味なのだと。
実は最近、NON STYLE 石田さんの「答え合わせ」や令和ロマン・髙比良くるまさんの「漫才過剰考察」にハマっていて、面白い掛け合いの「仕組み」についてかなり考えていました。
でも本書を読んで、会話の本質は必ずしもそういった技術的な部分だけではないことに気づかされました。巧みなツッコミやテンポのいい掛け合いも素晴らしいけれど、二人で同じ風景を見つめて「へぇ」と言い合えるような静かな会話にも、また違った味わいがあるんですね。
これまで私は「相手に興味を持ってもらえるような話をしなきゃ」「相手の話をもっと引き出さなきゃ」と、どこか力んでいた気がします。でも、本書はそんな会話の構えをすべて取り払ってくれました。漫才のようにオチを付ける必要もない。ツッコミも不要。むしろ、ボケにボケを重ねて「今なんの話してたっけ?」となる方が、会話として自然なのかもしれません。
会話は決して「相手を理解する」「自分を理解してもらう」ためのものではない。そう割り切ることで、むしろ自然な会話が生まれる。この逆説的な知恵が、私の日々の会話をより楽しいものにしてくれています。
勘違いが人を動かす――教養としての行動経済学入門
人はとても愚か。「人は論理や情熱ではなく、認知バイアスによって動く」という衝撃的な視点を示してくれる一冊です。その象徴的な例が、男性用トイレの小便器にハエのマークを描くと飛び散りが激減する「ハウスフライ効果」。私たちは意外なほど、こういった「勘違い」によって行動が変わってしまう生き物なんですね。
本書は、普段の生活で遭遇する様々な認知バイアスについて、豊富な事例とともに解説してくれます。例えば、カジノが現金ではなくチップを使う理由。実は、チップを使うと現金を使う時より負けた時の痛みを感じにくくなるそうです。さらにカーペットを長めにして歩くスペードを遅くさせたり、出口への最短ルートをわかりにくくしたり...。私たちの行動を操る仕掛けが、至る所に張り巡らされているんです。
特に印象的だったのは、「予期的後悔」についての指摘です。私たちは「将来後悔するかもしれない」という不安から、決断を先送りにしがちです。でも実は、人は将来の感情を過大評価する傾向があり、実際の後悔は想像よりもずっと小さいものだとか。この点については、『変化を嫌う人を動かす』という本でも深く掘り下げられています。人が変化を受け入れられない理由として「惰性」「労力」「感情」「心理的反発」という4つの要因があるそうです。両書を併せて読むことで、人がなぜ現状維持バイアスに縛られやすいのか、より立体的に理解できました。
本書を読んで、自分の行動の多くが実は「論理的な判断」ではなく「認知バイアス」によって左右されていることを実感しました。この気づきは、自分の意思決定を見直すきっかけになると同時に、他者の行動をより深く理解することにもつながります。賢明なのは、これらのバイアスと戦うことではなく、その存在を認識した上で、うまく付き合っていくことなのかもしれません。
おわりに
今年の読書を振り返ってみると、一つの大きなテーマが浮かび上がってきました。それは「人はいかに自分の思い込みに縛られているか」ということです。私たちは普段、意識せずに様々な思い込みの中で生活しています。でも、新しい本と出会うたびに、そんな「当たり前」が少しずつ揺さぶられていくような体験をしました。
「へぇ~、そうなんだ」という素直な驚きから始まった読書でしたが、振り返ってみると、それぞれの本が不思議と響き合って、より深い気づきをもたらしてくれたように思います。理論的な本を読んでは実践的な本で確認し、個人的な視点の本を読んでは社会的な視点の本で補完する。そんな読書の往復運動の中で、自分の視野が少しずつ広がっていくのを感じました。
来年も、このように自分の「思い込み」を優しく解きほぐしてくれるような本との出会いを楽しみにしています。そして、その体験をまた皆さんと共有できればと思います。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。