この記事は、3-shake Advent Calendar 2023 21日目のエントリ記事です。
はじめに
2023年が終わろうとしています。年の瀬になると、いつも一年を振り返ることが私の習慣です。技術書に続いて、今年はさまざまな非技術書にも手を伸ばしました。小説や歴史、哲学、芸術の本など、多くのジャンルの本を読むことで、心が豊かになったと感じています。これらの本は、技術的なことだけではなく、人生について深く考えるきっかけをくれました。
異なる文化や、普段とは違う視点の物語に触れることで、新しい考え方を学びました。これらの本が、私の考えを広げ、日々の生活に新しい刺激を与えてくれました。技術書と一緒に、これらの本も私のエンジニアとしての知識を形成する大切な部分になりました。
2023年は、技術だけでなく、人生の学びにも終わりがないことを感じた一年でした。非技術書から得たことは、技術書から学んだことと相まって、私の理解を深めてくれました。読書を通じて得たこれらの経験は、来年もまた新しい発見への旅に私を連れて行ってくれるでしょう。そして、来年もまた、本とともに充実した一年になることを楽しみにしています。
プログラマー脳
『プログラマー脳 ~優れたプログラマーになるための認知科学に基づくアプローチ』は、プログラミングのスキル向上に認知科学の手法を応用した、画期的な書籍です。この本は、プログラマーがプログラムを読み書きする際に経験する認知的プロセスを深く掘り下げ、熟達したプログラマーと初心者の違いを明確に示しています。著者は、具体的なプログラミング技法や設計手法の直接的な説明を超え、認知のメカニズムを理解し活用することにより、プログラミングの学習と実践の改善を目指しています。
本書の強みは、抽象的な概念を具体的な実例や演習を交えて解説することで、読者が新しいアイデアを自然に理解し、実践的な知識として身につけるのを助ける点にあります。また、プログラミングに関連する認知科学的な概念を、実際のプログラミングの状況にどのように適用するかについて、具体的かつ実用的なアドバイスを提供しています。こうしたアプローチは、読者がプログラミングに関する洞察を深め、より効率的かつ効果的に技術を習得する手助けをします。
この本で特に興味深いのは、「意味波」という概念です。これは、新しい概念や技術を学ぶ過程で、抽象から具象、そして再び抽象へと進むプロセスを指します。このプロセスは、学習者が情報を受け取るだけでなく、それを自分の既存の知識や経験と結びつけ、より高い次元の理解へと昇華させるのに役立ちます。このアプローチは、新しい技術やアイデアを単に学ぶのではなく、それらを既存の知識構造に組み込んで深い理解を得ることに重点を置いています。他にも面白い概念や考え方が多いので、ぜひ読んでみてください。
本書は、プログラミングにおける認知的側面を深く掘り下げることで、新しい学習法やスキル向上のアプローチを提供します。これにより、プログラミングのスキルを深め、熟達したプログラマーになるための貴重な知識と洞察を提供しています。
『プログラマー脳』を読んで面白いと感じた方は、『言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか』も読んでみてください。『言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか』は、言語の起源と進化に焦点を当てた別の注目すべき書籍です。この本は、言語が人間にとってどのように重要なコミュニケーションツールとして発展してきたのかを探求しています。特に、オノマトペやアブダクション推論という人間特有の学びの力に焦点を置き、言語の進化と子どもの言語習得を通じて人間の根源に迫ります。著者は、言語の起源と進化に関する深い知見を提供し、言語が単なるコミュニケーションツール以上のものであること、すなわち、私たちの認知と感情、文化に深く根差した現象であることを明らかにします。
本書は、言語の抽象性や体系性、さらには言語がどのようにして複雑なシステムへと発展してきたのかを解明しています。これらのトピックを通じて、読者は言語の複雑な構造と機能、そして人間の認知プロセスとの関連を理解することができます。この本は、言語学、認知科学、心理学に興味を持つ読者にとって、知識の深化と洞察の拡大に貢献するでしょう。
それぞれ異なる領域において人間の認知能力と学習の本質に深く切り込んでいる『プログラマー脳』と『言語の本質』に加えて、『進化心理学から考えるホモサピエンス 一万年変化しない価値観』も非常に興味深い本です。『プログラマー脳』では、プログラミングの習得と実践に認知科学を適用し、『言語の本質』は言語の起源と進化を探求することで人間の認知プロセスを解析しています。これらの本は、それぞれの分野において新たな洞察を提供し、読者の理解とスキルの向上に貢献します。
『進化心理学から考えるホモサピエンス 一万年変化しない価値観』は、進化心理学の観点から、人間の行動や価値観がどのように進化してきたかを探る一冊です。この本は、私たちの行動や意思決定に影響を与える進化的適応について深く掘り下げ、現代の社会や文化における人間の行動パターンを進化心理学的視点から分析します。この並びで本書を紹介するのは、伊藤計劃の『虐殺器官』が『言語学、進化心理学SFの傑作である』ためで、この本は人生を変えるぐらい面白い本だったからです。また、『ゆる言語学ラジオ』も聞いており、とても良かったのでおすすめです。
エンジニアのためのドキュメントライティング
Docs for Developers: An Engineer’s Field Guide to Technical Writingの翻訳本です。書いた書評のブログ記事では、この本が良いドキュメントの特徴を架空の開発チームのストーリーを通して教えることで、読者にドキュメンタリアンとしての情熱を呼び起こすと評価されています。
原著は読んでないです。やっててよかったO'Reillyサブスクは原著版のみあります。 learning.oreilly.com
また、技術ドキュメントではないいですが『三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾』もおすすめです。この本は読者に向けた独特なアプローチで、文章技術の向上を目指す実用書です。作家の近藤康太郎氏によるこの本は、ただのテクニック本にとどまらず、書くという行為を通じて自己の実存を考えさせられる思想書としての側面も持ち合わせています。文章テクニックだけでなく、企画の立て方、時間・自己管理術、インプットの方法、思考の深め方に至るまで幅広くカバーし、リリカルな思想とロジカルな技術を融合させています。また、他人の目で空を見ず、自分だけの言葉で書くことの重要性や、「説明しない技術」を身に付けることの必要性を強調し、読者が自然に感情を動かされる文章を書くための技術を教えてくれます。文章を通じて善く生きるための深い洞察を提供する、稀有な一冊です。技術ドキュメントとの差異が分かるので理科系の作文技術や数学文章作法などと一緒に読むと自分がその時に書くべき文章がわかってくる。
同著者の近藤康太郎の『百冊で耕す 〈自由に、なる〉ための読書術』は、読む行為を通じて自己を見つめ、新しい自己を発見するための思想書としても機能します。速読や遅読、批判的読書や没入的読書など、対立する読書法を探求し、それらを融合させることで多面的な読書体験を提案しています。近藤氏は、「本は百冊あればいい」と述べ、読者に自分にとってのカノン(聖典)100冊を選び、深く読み込むことで、知識を内面化し、己の一部にする方法を説いています。本書は、読書のご利益を探求し、勉強、孤独、愛、幸せ、生きることについての疑問を掘り下げ、読むことで自分が変わり、他者や世界を愛する新たな自分を発見する旅を提案しています。
達人プログラマー 第2版
『達人プログラマー ―熟達に向けたあなたの旅― 第2版』は、David ThomasとAndrew Huntによる名著で、ソフトウェア開発者がより効率的かつ生産的になるための実践的アプローチを提供する一冊です。本書は特に今年読んだわけではないものの、非常に多く引用して、活用している価値のある本としてあげておきます。
プログラマーとしての技術面だけでなく、問題解決の姿勢やプロフェッショナリズムについても深く掘り下げています。例えば、「猫がソースコードを食べちゃった」というセクションでは、責任を持つ重要性を強調し、「石のスープとゆでガエル」では、プロジェクト進行の重要なポイントを示唆します。また、「伝達しよう!」のセクションでは、効果的なコミュニケーションの重要性を説いています。
また、プロジェクトマネジメントやチームワーク、プロフェッショナルとしての姿勢に関する深い洞察を提供し、エンジニアとしてのキャリアを積む上での貴重な指針となります。本書はあまりに網羅的な内容のため、各セクションに関連する本での補完が必要だと思います。
しかし、特に技術系のポエム記事に触れたことがある読者には、この一冊を深く読み込むことを強くお勧めします。『達人プログラマー』は、プログラマーだけでなく、あらゆるソフトウェア開発に関わる全ての人にとって、読む価値のある一冊です。『SOFT SKILLS ソフトウェア開発者の人生マニュアル 第 2 版』も同様にオススメですがこちらの方がバラエティに富んでいるのでちょっとエンジニアリング以外のコラムも読みたい方はこちらの方がオススメです。
スタッフエンジニア
『スタッフエンジニア マネジメントを超えるリーダーシップ』はWill Larsonによる本で、エンジニアリングキャリアのシニアレベル以上を目指す人にとって重要な指針を提供する一冊です。Will Larsonは、EM(エンジニアリングマネージャー)としてのチームのつくりかた、VPやDirectorとしての組織のつくりかたに関する洞察を提供する『An Elegant Puzzle』の著者でもあります。本書の洋書版を読む気力がなかった私にとって、翻訳本の出版はありがたいことでした。また、LarsonのHow to invest in technical infrastructureという記事も、共通基盤への投資方法について記述しており、非常に参考になるためオススメです。
さて、本の内容に戻りますと、第1章ではスタッフエンジニアの役割とその意味を深く掘り下げ、技術力だけでなく組織内での影響力とリーダーシップの重要性を強調しています。これらの役割をどのように達成し、キャリアを前進させるかについて詳細に説明しており、特に印象的なのは、「スタッフエンジニアになれば自分の仕事を自分で管理でき、誰もがあなたに従い、あなたの望むことをするようになると考えたら大間違いだ」という言葉です。これはスタッフエンジニアの役割に関する一般的な誤解を解き明かしています。さらに、シニアエンジニアからスタッフプラスエンジニアへの進化を探る第3章、転職の決断を考慮する第4章、そして現役スタッフエンジニアのインタビューを通じて彼らの日常と役割の変化を深く掘り下げる第5章が続きます。全体を通して、この本は技術的なキャリアパスにおいてマネジメントの道を選ばないエンジニアにとって、必読の書です。各章は、スタッフエンジニアとしての役割を深く理解し、実現するための具体的な手法を提供しています。この本は、私のような経験豊富なエンジニアにとっても新たな学びとなり、これからのキャリアにおいて大いに参考になります。
プロジェクト ヘイルメアリー
サーキット・スイッチャー
可燃物
大規模言語モデルは新たな知性か?
ブラジャーで天下をとった男
さいごに
この年、多くの非技術書に没頭することで、私は内面的な成長と感情の豊かさを体験しました。各々の書籍が示した独特の感性や深い感動は、私の人間性を拡げ、心を満たしてくれました。皆さんからの心に残る作品の推薦も、来年の読書リストに追加し、楽しみにしています。読書はただの趣味にとどまらず、私たちの感情や人格を育て、深める重要な行為です。来年も、私と一緒に、心の成長と感動の旅に出ましょう。2024年も感動に満ちた読書の時を過ごし、新しい自分を見つけ、心の成長を遂げる一年となりますように。